Newsletter Volume 10, Issue 2 June 2025
On-site Interview Report
コンビジャイロ工法™による仮堤防の構築(兵庫県伊丹市)
コンビジャイロ工法™による仮堤防の構築(兵庫県伊丹市)
Maki Kato
IPA Secretariat
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株式会社佐藤重機建設 青栁 祐希 氏(2016年入社) 入社以来9年間にわたり圧入施工に従事 本工事では職長を担当 |
株式会社佐藤重機建設 岩野 純太 氏(2011年入社) 入社以来14年間圧入施工に従事
本工事ではオペレーターを担当
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▼工事概要
Q1.今回の工事の概要を教えてください。
青栁氏:最終的には堤防を開削し、鋼製水路を使って河道を切り回しながら、天神川を横断する荒牧トンネルをボックスカルバートに改築し、その後、堤防の強化を行う予定です。今回はその第一段階として、仮堤防を設置します。開削で工事を行うには河川断面を広げる必要があるため、既設堤防の外側に「コンビジャイロ工法」で締切壁を設ける工事を行います。
【工事情報】
工事名:令和6年度(二)武庫川水系天神川
堤防強化対策工事(その8)
工事場所:兵庫県伊丹市荒牧
発注者:兵庫県阪神北県民局 宝塚土木事務所
元請業者:松陽建設株式会社
施工業者:株式会社佐藤重機建設
工 期:2024年12月12日~2025年4月7日
【杭材規格】
・ハット形鋼矢板
規格:25H 長さ:9.5~21.0m 枚数:68枚
・鋼管杭
規格:φ1000 t=11~24mm 長さ:19.0~21.5m 本数:23本
図2:標準断面図
【コンビジャイロ工法とは】
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図3:コンビジャイロ工法 |
・剛性の高い鋼管杭と、止水性に優れたハット形鋼矢板を組み合わせて壁体を構築する工法
・地盤条件や壁高に応じて、鋼矢板の長さ、鋼管杭の杭径・杭長・設置間隔を調整し、機能的かつ経済的な構造を実現
・圧入機のチャック交換により、1台でハット形鋼矢板・鋼管杭両方の施工が可能
※コンビジャイロ工法は、株式会社技研製作所および日本製鉄株式会社の登録商標です。
参照:株式会社技研製作所 コンビジャイロ工法
▼圧入工法採用の背景
Q2.通常は鋼矢板の二重締切によって堤防が構築されるケースが多いと思いますが、今回の工法が採用された背景を教えてください。
青栁氏:令和5年5月8日に発生した5月の観測史上1位の最大雨量を上回る大雨で堤防が決壊し、甚大な被害が生じました。現場は家屋が密集する住宅地であることから、環境への配慮はもとより、発注者様の「工期を可能な限り短縮したい」とのご要望に応えられる手法としてコンビジャイロ工法が採用されました。鋼矢板による二重締切に比べ、仮堤防の幅を抑えられるというメリットも理由のひとつです。今回の施工は渇水期でしたが、同工法は出水期にも対応可能で、柔軟な対応力が評価されました。実際施工してみての感覚ですが、ヤードが狭くコンビジャイロ工法でしか施工できなかったのではとも思います。
▼現場の工夫と課題
Q3.現在の進捗状況と、特に苦労された点について教えてください。
青栁氏:圧入工事は工程通りに進んでいますが、施工ヤードの狭さには非常に苦労しました。幅員約7mのヤードに加え、搬入経路も限られていたため、大型クレーンの使用ができず、70tラフタークレーンによる施工となりました。約6mの高天端施工で安全・品質を考慮するとオーガを補助吊りする必要がありますが、堤防天端高が法尻から4~7mもあり大型土のうを積層してヤードを構築すると計画法線とクレーンヤードが離れてしまい、矢板長18.5~21.0mのオーガの補助吊りが可能な距離まで近づくことができませんでした。
Q4.どのように対応されたのでしょうか。
青栁氏:オーガを縦継ぎ・分割することで、70tラフタークレーンでも補助吊りが可能となります。ただし、ヤードが極めて狭いため、オーガを倒す際にも細心の注意を払いながら作業を進めました。
▼印象に残った現場
Q5.これまで施工されてきた現場の中で印象に残っている、あるいは特に苦労した現場を教えてください。
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写真3:青栁氏 |
青栁氏:印象に残っているのは、入社2年目に携わった首都高の一部を更新する現場です。現場管理として従事しており、最大7台のパイラーでの鋼管矢板圧入施工とその付帯工事を請け負っていました。その際、上司から「専門工事業種の職種だけでなく、現場全体を見据えて行動しなさい。お客さんにとっては工事現場全体の一業種にすぎない」と教えられました。狭隘な施工場所の中で多数の業者が同時に作業をしているため、各業者間での調整を密に行う必要があり、業者の垣根を越えて現場全体が一体となり工事目的を目指していると感じた現場でした。
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写真4:岩野氏 |
岩野氏:私は、今回の現場が一番苦労しています。コンビジャイロ工法では、ハット形鋼矢板の傾きが大きくなるとその後に施工する鋼管杭との距離感が合わなくなるため、精度の管理が非常に難しかったです。特に鋼矢板が18.5~21.0mの長尺で、なおかつ高天端での施工となると、一度ズレが生じると修正が難しくなります。コンビジャイロ工法の経験は少なかったので、次に施工する際には今回の現場での経験が活かせると思います。
▼圧入工法の将来性と課題
Q6.圧入工法の将来性についてどのようにお考えでしょうか。期待している点、課題として感じている点などはありますか。
岩野氏:近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、完全な自動化・遠隔操作の実現にはまだ課題があると感じています。地面の下は見えないため、柱状図にはなかった障害物が出てくるなど、設計時に予測していなかった事態にあたることもあります。今回のような施工枚数の少ない現場でも、場所によって埋設物の有無や地盤の硬さが異なりました。現場ごとに微調整が必要で、オペレーターの感覚に頼っている部分も多いのが現状です。また、操作する技術者によって進捗や品質に差が出るため、技術の継承も大きな課題だと思います。
青栁氏:圧入工法は個人の技量に大きく左右される工種だと感じています。今後、自動運転等の技術の発展によって、その差を縮めていく必要があります。他の建設機械と比べると、圧入機の遠隔操作や自動化はまだ進んでいないように思います。ヒューマンエラーによる事故も多いのでFail-Safe・Fool-Proofで何か改善できないかと期待しています。建設業に従事して9年しか経っていませんが、様々な現場で若い人の少なさは感じてきました。建設業全体のDX化を進めることで、いわゆる“3K”(きつい・汚い・危険)のイメージを払拭し、より魅力ある業界にしていきたいと考えています。
【インタビュー後記】
今回、一般社団法人全国圧入協会(JPA)様の現場見学会にて、株式会社佐藤重機建設様にインタビューを行いました。実際に現場で民家がすぐ隣接する環境での施工を拝見し、お二人が語った「ヤードの狭さ」をまさに体感しました。また、圧入工法の将来について、現場ならではの課題意識と真摯な姿勢を伺うことができました。こうした課題を一つひとつ乗り越えながら、業界がさらに発展していくことを期待しています。
【御礼】
インタビューに応じていただきました株式会社佐藤重機建設、そして元請業者である松陽建設株式会社及び関係者の方々、ご協力いただきまして誠にありがとうございました。
【インタビューご協力のお願い】
現場でご活躍中のオペレーターの皆様からのインタビュー協力や、ユニークな施工実績のご提供を募集しております。ぜひ国際圧入学会事務局(tokyo@press-in.org)までご連絡ください。
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