Newsletter 2026年9月号 Vol. 11, 3
鉄筋コンクリート被覆工法を用いた港湾鋼構造物の防食および補修
1. はじめに
海洋環境下で供用される港湾鋼構造物は厳しい腐食環境に長期的に曝されるため、防食工法の選定は極めて重要である。鋼構造物の防食工法には用途に応じて多くの工法があるが、近年インフラの長寿命化、維持管理や補修(力学性能の回復)に加えて、当初保有していた以上の力学性能を付与する補強のニーズの高まりを踏まえ、ここでは数ある防食工法の中で期待耐用年数が比較的長く、鋼矢板・鋼管杭壁への適用実績が多い防食工法の中で、状況によっては補強工法としても有効である「鉄筋コンクリート被覆工法」を取り上げる。
2. 鋼構造物の腐食速度
鋼構造物の港湾・海洋環境における腐食については、腐食環境と腐食速度の関連性がいくつかの基準で紹介されている。ここでは、日本、欧州および国際基準を紹介する。なお、これらの基準は温帯気候の標準的な海洋条件を前提としているため、異なる腐食環境の地域においては、現地の状況を反映した検討が必要である。例えば、塩分濃度が高い紅海(世界平均の塩分濃度が約3.5%であるのに対して紅海は約4%前後)などでは、比較的高い海水温および気温と相まって、無防食の鋼材の腐食速度が最大1.0mm/年にも達することが知られている。
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日本:港湾鋼構造物防食・補修マニュアル(沿岸技術研究センター)
本マニュアルでは、港湾における無防食の鋼構造物で得られた平均的な腐食速度を集約し、腐食環境ごとの腐食速度が標準値として公表されている。(図-1および表-1参照) |
| 2) |
日本:港湾の施設の技術上の基準・同解説(公益社団法人 日本港湾協会)
本基準では、既設鋼構造物の調査結果等を基に取りまとめられた平均的な値が表-2に示されている。なお、集中腐食の腐食速度は表-2の値を大きく上回ることがある。また、土中部の腐食については、一般に腐食速度は小さいが、土の物理的特性(粒径、含水比、土壌抵抗率等)や化学的特性(pH、溶存酸素、微生物の活動度等)によっては、大きな値を示すこともある。
表-2. 鋼材の腐食速度の標準値
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欧州:BS EN1993-5:2007 Eurocode 3-Design of steel structures-Part5: Piling
欧州基準であるユーロコードにおいては、表-3に示すように5~25年間の鋼材腐食量の実測値をもとに、最長125年までの予測腐食量が公表されている。
表-3. ユーロコードにおける鋼材の腐食量
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国際:ISO9223:2012 (腐食環境区分)およびISO9224:2012 (金属および合金の腐食作用の指針値)
ISO9223においては、暴露試験や環境因子の計測から暴露初年度の腐食度を求め、それに応じて腐食度対照表から腐食カテゴリーを決定する。 次に、ISO9224:2012において、上記の初年度の腐食量と腐食カテゴリーを基に、鋼材の材質、年間平均気温、年間平均相対湿度、二酸化硫黄の沈着量、塩化物の沈着量、暴露時間、時間経過とともに鈍化する腐食速度の減少率などから腐食量を求める内容となっている。ここでは計算式および各指標の紹介は割愛するため、詳しくは該当の基準を参照されたい。 本基準は、パラメーターが細分化されているため計算の操作性が高い一方、初年度の腐食量や腐食環境が十分に把握できていない場合は不確実性が大きくなることから、検討のための事前調査に手間を要するという欠点がある。 |
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以上に述べたように、腐食環境と設計供用期間から腐食量を算定し、それに見合った腐食しろをあらかじめ加算することによって、供用後の鋼構造物の健全性を保つことは可能である。しかしながら、腐食しろの加算は経済性を損なう場合もあり、また、高腐食環境のL.W.L.-1.0mから飛沫帯においては、低潮位部急速腐食により予想以上の腐食が発生する恐れがあることから、腐食しろのみに依存せず、防食工法を併用するのが望ましいとされている。なお、日本の港湾鋼構造物に関しては、腐食しろのみによる対策は、仮設構造物を除き適用しないことを原則としている。
3. 港湾鋼構造物に用いられる防食工法
港湾鋼構造物に用いられる防食工法は、電気防食工法と被覆防食工法に大別され、M.L.W.L.以深の部分に電気防食工法を、L.W.L.-1.0m以上の部分に被覆防食工法を適用するのが一般的である。(図-2参照)
また、下記表-4に防食工法の分類を示す。
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被覆防食工法
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塗装工法
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有機被覆工法
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重防食被覆工法
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超厚膜形被覆工法
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水中硬化形被覆工法
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ペトロラタム被覆工法
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金属被覆工法
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耐食性金属被覆工法
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金属溶射・めっき工法
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無機被覆工法
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モルタル被覆工法
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鉄筋コンクリート被覆工法
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電着被覆工法
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電気防食工法
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流電陽極方式
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外部電源方式
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4. 鉄筋コンクリート被覆工法の概要
鉄筋コンクリート被覆工法は、鉄筋によって補強されたコンクリートを鋼矢板壁や鋼管杭連続壁に被覆する工法である。基本的な防食機構は、コンクリート被覆による環境遮断効果に加え、セメントのアルカリ性により鋼材表面を不動態化させることで腐食から保護するものである。外力の作用に対する抵抗性が高く、補強工法としても用いられる。また、波浪の影響を受けやすい環境や、船舶などが被覆防食に直接接触する恐れがあるような環境または漂流物の衝突などの外力への抵抗性を求められる場合に適用される。図-3および図-4に示すように、コンクリートの硬化後に型枠を取り外す方式と、プレキャストコンクリート板などを型枠に用いてそのまま残置する方式がある。
鉄筋コンクリート被覆工法は、現場施工が可能であることから、新設構造物の防食工法に適用できるばかりでなく、無防食または防食性能が低下した鋼構造物に適用することによって、力学性能の回復を図る「補修」または力学的性能の向上を図る「補強」にも用いることができる。
5. 鉄筋コンクリート被覆工法の設計・施工フロー
鉄筋コンクリート被覆を用いた港湾鋼構造の設計手順は図-5の通りである。

図-5. 鉄筋コンクリート被覆工法の設計フロー
鉄筋コンクリート被覆工法の施工手順を図-6および図-7に示す。

| 1) |
仮設足場工
仮設足場には、波浪などの外力に対して十分な強度を有し、各作業が安全かつ円滑に遂行できる構造とする必要がある。一般的には単管足場やブラケット式足場を使用する場合が多い。 |
| 2) |
素地調整
スタッド溶接に先立ち、鋼矢板または鋼管杭の付着生物やさびなどを除去する必要がある。素地調整の方法にはブラスト処理、動力工具(エアサンダや機械式チッピングハンマ)による処理、手工具(スクレーパやワイヤブラシ)による処理、高圧水による処理などがある。 |
| 3) |
スタッド溶接
鋼矢板または鋼管杭と鉄筋コンクリートを一体化させるために鋼材表面にスタッドボルトを溶接する。スタッド溶接には気中でのスタッド溶接と水中スタッド溶接があるが、水中や水の影響を受ける環境での施工には水中スタッド溶接を用いる必要がある。 スタッド径は16mmと19mmが標準であるが、水中スタッドの場合、溶接姿勢が横向きとなることからスタッドボルトの標準適用軸径は16mmが上限となる。16mmを超える軸径のスタッドボルトの水中溶接が必要となる場合、現場条件に応じて独自の施工管理基準を設ける必要があるが、その場合においても水中スタッド溶接の上限は19mmである。 なお、水中溶接後のスタッドボルトの品質検査については、陸上溶接における曲げ試験のような物理試験は要求されない。その代わりにビジグラフ(溶接電流と溶接時間の関係を示したグラフ)の全数提出が前提となる。 |
| 4) |
鉄筋の加工・組み立て
鉄筋コンクリート被覆に使用する鉄筋は、JIS G3112「鉄筋コンクリート用棒鋼」に規定される異形棒鋼が使用される。鉄筋の組み立ては水中での作業となるが、クレーン等の揚重機が使用できる状況にある場合はあらかじめ陸上で組み立てた鉄筋を吊り込んで行われる。鉄筋の結束方法には鉄線や結束クリップによる方法や点溶接があるが、波浪や水流などの外力の作用を考慮して、組み立てた鉄筋をコンクリートの打ち込みまで保持できる方法を選定する必要がある。 |
| 5) |
型枠支保工の組み立て
型枠にはコンクリートの硬化後に取り外す仮設型枠と、プレキャストコンクリート板などを型枠に用いてそのまま残置する本設兼用型枠がある。いずれの場合も型枠は水中でのコンクリート打設に耐えうるよう、コンクリート重量やその他の外力に対して十分な強度を有する必要がある。また、底部および結合部からのモルタル分の流出や海水の流出入がないように、型枠継目の隙間等への配慮が重要である。なお、コンクリート打設には高い充填性が求められることから、信頼性の高い部材を構築するために、被覆厚を150mm以上とする場合が一般的である。 |
| 6) |
コンクリート打設・養生
鉄筋コンクリート被覆は水中および水中を含む環境下で施工されることから、コンクリート材料には水中分離性コンクリート(一般的な水中コンクリート)、水中不分離性コンクリート(特殊な混和材を混入した粘性の高いコンクリート)が用いられる。海洋・港湾環境においては材料分離が生じにくく、その高い流動性から良好な充填性を有する水中不分離性コンクリートを用いるのが望ましいとされている。ただし、水中不分離性コンクリートは、水に接しない箇所に打設すると乾燥収縮が大きくなり、また凍害への抵抗性が低いことから、これらの作用が懸念される環境においては一般的な水中コンクリートを使用することが望ましい。 なお、施工性の面からは、壁体と型枠の間に十分な離隔があり、コンクリートポンプ車で均等に打設できる場合は水中分離性コンクリートが用いられるが、そうでない場合は水中不分離性コンクリートが用いられる傾向にある。 |
| 7) |
型枠取り外し
コンクリートの強度が必要強度に達したことを確認した後に型枠を取り外す。型枠を取り外した後のセパレータ孔などは、水中硬化型エポキシ樹脂などにより充填する。 |
6. 鋼材と鉄筋コンクリートの合成断面性能
鋼矢板や鋼管杭のような鋼材に鉄筋コンクリートを被覆し合成壁体とする場合、合成壁体の設計断面力は鉄筋コンクリートの断面力と同様に算定する(式6-1および図-7参照)。その際、鋼矢板または鋼管杭は、それと等しい断面積を有する鉄筋とみなして検討してよい。
S=Es{(xc-dt)2At + (xc-dc)2Ac + Isg + As(xc-g)2} + Ec{1/12・(b2-b1)/Hs・xc4 + b1/3・xc3} ……(6-1)Es : 鋼矢板のヤング係数 (N/mm2)
Ec : コンクリートのヤング係数 (N/mm2)
xc : 合成断面の中立軸の高さ (mm)
Hs : 鋼矢板壁の高さ (mm)
b1 : 鋼矢板壁の圧縮側のフランジ幅 (mm)
b2 : 鋼矢板壁の引張側のフランジ幅 (mm)
Ac : 圧縮鉄筋の断面積 (mm2)
At : 引張鉄筋の断面積 (mm2)
As : 鋼矢板1組当たりの断面積 (mm2)
dt : 圧縮縁から引張鉄筋の中心までの距離 (mm)
dc : 圧縮縁から圧縮鉄筋の中心までの距離 (mm)
g : 鋼矢板壁の中立軸の圧縮縁からの距離 (mm)
Isg : 鋼矢板1組当たりの断面二次モーメント (mm4)
なお、スタッドボルトは「応力伝達用のシアコネクタ」として扱い、壁体の断面性能の算定には含めないのが一般的である。
7. 鉄筋コンクリート被覆の補修
施工した鉄筋コンクリート被覆に発生した損傷に対しては、損傷の規模によって補修方法が異なる。小さなひび割れや欠損および小さな範囲の鉄筋の露出の場合、水中硬化形エポキシ樹脂材による補修法が用いられるが、大きなひび割れ、欠損および広範囲な鉄筋の露出に対しては損傷部のコンクリートの撤去・再施工法が用いられる。
- 状態確認
- コンクリートをカット
- 水中硬化形エポキシ樹脂の充填
- 品質確認
- 状態確認
- 劣化した表層部の除去 (目粗し)
- 水中硬化形エポキシ樹脂の塗布
- 品質確認
- 状態確認
- 損傷部コンクリートの除去
- 損傷鉄筋・スタッドジベル筋の追加
- 型枠の設置
- コンクリート打設・養生
- 型枠の撤去
- 品質確認
8. プレキャストコンクリート版(残置型枠)を用いた非合成構造コンクリート被覆工法
これまで鉄筋コンクリートと鋼材を構造物として合成した防食工法について述べたが、鋼材のみで構造を持たせる場合は、コンクリートは非構造物として扱うことができることから、スタッドボルトや鉄筋の構造を簡素化することができる。この場合、図-8に示すように、プレキャストコンクリート版が残置型枠として用いられ、プレキャストコンクリート版の鋼材への固定と防食を行うために、コンクリートが充填される。

図-8. プレキャストコンクリート版を用いたコンクリート被覆工法
近年は、施工性を重視してプレキャストコンクリート版を用いた非合成構造コンクリート被覆工法を用いた防食工法の適用が増加傾向にある。コンクリート版の設置は分割施工が前提となっており、最大壁高17.6mまでの施工実績がある(2026年4月現在)。図-9~図-14にプレキャストコンクリート版の概要を示す。(写真提供:共和コンクリート工業株式会社)
9. まとめ
鉄筋コンクリート被覆工法は、被覆防食工法の中でも比較的経済性が高く、かつ長い設計供用期間が期待できる工法として、多くの港湾鋼構造物の防食に用いられてきた。加えて、維持管理が容易であることからライフサイクルマネジメントの計画・実施が行いやすいことも、適用実績の多さの要因となっている。
また、鉄筋コンクリート被覆工法は、鋼構造物が当初保有していた力学性能が腐食により減じたとしても、安定的に断面を保持できる程度の設計断面耐力にまで回復させることができる。加えて、耐震性の向上や対象船舶の大型化等を含む作用荷重の見直しなど、構造物の補強が必要な場合にも有効である。鋼構造物の表面に打設するコンクリート厚や、応力を伝達するスタッドボルトや鉄筋との組み合わせが自在であることから、設計の自由度が高く、様々な設計断面耐力に対して柔軟に対応できる。
さらには、施工前に鋼構造物に防食を施した被覆工法と異なり、鋼構造物施工の事後の被覆施工となることから防食性能の健全性の担保が容易である。なお、景観設計も容易であることから、今後のさらなる適用に期待したい。
参考文献:
一般財団法人 沿岸技術研究センター, 港湾鋼構造物防食・補修マニュアル, 2022年版, 2022.9防食・補修工法研究会, 港湾構造物 新しい防食工法・補修工法・維持管理 実務ハンドブック (設計施工編・維持管理編・付録), 2013年度版, 2014.3
公益社団法人 土木学会, コンクリート標準示方書 設計編 2022年度版, 2023.3
公益社団法人 土木学会, コンクリート標準示方書 施工編 2022年度版, 2023.3
公益社団法人 土木学会, 水中不分離性コンクリート設計施工指針(案), 2021.8
BS EN 1993-5:2007, Eurocode 3 Design of steel structures - Part5: Piling
UK National Annex to Eurocode 3: Design of steel structures - Part 5: Piling
ISO9223:2012 Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Classification, determination and estimation
ISO9224:2012 Corrosion of metals and alloys — Corrosivity of atmospheres — Guiding values for the corrosivity categories
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